細胞はHSPに代表されるストレスタンパクを誘導することで様々なストレスに対して耐性化する。HSPは変性したタンパクを元の高次構造に戻したり分解することで耐性化に関与し、その分子量によりHsp60、Hsp70、Hsp90などの複数のファミリーに分類されている。研究代表者が着目したHsp70は、本来の分子シャペロンとしての役割のほかに、TNFαなど炎症性サイトカインの産生抑制、虚血耐性形成などの作用を持つことが知られ、注目されている。 テプレノン、亜鉛はHsp70の誘導効果が実験的に証明されており、臨床応用に期待されている。これらの作用をボランティアや実際の臨床の現場で検討することを予定した。 20代-30代の健常ボランティア5人にテプレノンを内服させ、血清におけるHsp70レベルの変化をELISAで確認した。しかし、投与前、投与後とも検出感度以下であり、テプレノンによる誘導は認めなかった。Hsp70はストレスタンパクであり、何らかの病態において発現が増加し作用を発揮する。そのため、ストレス下でのHsp70誘導と、それによる臓器保護や炎症反応の抑制効果を検討するため、実際の臨床での研究を計画した。具体的には、整形外科で脊椎の手術を予定している患者をテプレノン内服群と非内服群に分け、術前後のサイトカイン、炎症反応、臓器障害の指標に差があるかどうかの比較を行う。まず炎症反応の指標として、術後3日目のCRP上昇の程度について内服群(n=6)、非内服群(n=4)で比較した。内服群4.66±2.04、非内服群6.25±6.16(p=0.762)と、有意差を認めなかった。現在サンプルの採取を継続中であり、十分なサンプル数が集まった後にサイトカインの測定を行う予定である。
|