研究概要 |
糖尿病性神経障害による下肢の疼痛は様々な鎮痛薬や神経ブロックに抵抗を示し、しばしば治療に難渋する。また昨今本邦でも糖尿病患者は激増しており、将来的に糖尿病性神経障害で悩む患者が増加すると思われる。糖尿病性神経障害モデルラットの脳内モノアミン動態を分析することで、今後の治療方針を検討するうえでの一助になるよう研究に取り組んだ。体重150-200gのSD系雌ラットにストレプトゾシン50mg/Kgを1.5mMのクエン酸でpH4.5に調整したものを尾静脈から投与し、数日後血糖値が300mg/dlより高値であることを確認する。4週間後にvon Frey filamentを用いて行い、得られたスコアに基づいてアロディニアや痛覚過敏の診断を行った。その後セボフルラン麻酔下に動物を定位脳固定装置に固定し青斑核にマイクロダイアライシスプローブを留置した。また内頸静脈より薬剤投与用にカテーテルを挿入した。2-3日後にシリンジポンプ(ESP-64,Eicom)を用いて、マイクロダイアライシスプローブを人工脳脊髄液で灌流(2μl/min)し、プローブを通して得られた灌流液をオートサンプルインジェクターを用いて高速液体クロマトグラフ(high performance liquid chromatography:HPLC)に注入するマイクロダイアライシス法に従って脳細胞外液中のセロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン濃度の測定を行った。内頸静脈より挿入したカテーテルから塩酸モルヒネ、トラマドール、クロミプラミンなどを投与し、von Frey testによる疼痛閾値の変化と青斑核でのノルアドレナリン細胞外濃度の変化を調べた。塩酸モルヒネ投与では疼痛閾値上昇するが、青斑核でのノルアドレナリン細胞外濃度の上昇は著明ではなかった。これに対しトラマドール、クロミプラミン投与では疾痛閾値上昇と青斑核でのノルアドレナリン細胞外濃度の著明な上昇を認めた。トラマドール・クロミプラミンは塩酸モルヒネと異なり、下行性疼痛抑制系において重要な役割を果たす青斑核へ直接作用すると考えられた。
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