研究概要 |
本研究課題は,リアノジン受容体(RyRl)を構成的に発現するヒト単球系無限寿命化細胞株THP-1を安定して大量に供給できる実験材料とし,悪性高熱症(MH)素因者を予測する新たな検査法を開発することを目的としている.平成23年度には以下の成果が得られた. 1.ブピバカインによる細胞障害の薬理学的解析.ブピバカインによる細胞障害は,MH発生機序である吸入麻酔薬によるRyRl活性化と同一機序で発生すると考えられている.ブピバカインによるTHP-1細胞障害は曝露後二時間で惹起され,ネクローシス優位であることが確認された.RyRl阻害薬であるダントロレンにより細胞障害は抑制された. 2.ブピバカインによるスーパーオキシド発生の確認.ブピバカインによるTHP-1ネクローシスに先立って,ブピバカイン刺激がTHP-1から発生するスーパーオキシドを増加させることが確認できた.このスーパーオキシド産生もダントロレンによって抑制された. 3.NADPHオキシダーゼ活性化の関与.白血球のスーパーオキシド産生はNADPHオキシダーゼ(NOX)由来と考えられている.NOX活性化は,惹起シグナルによってNOX酵素のコンパートメントが細胞膜に集積し結合することで得られるが,PI3K経路を介することが知られている.上記スーパーオキシドの活性化はダントロレンのほか,PI3K経路の阻害薬であるLY294002で抑制された. 本研究により,THP-1はMH発症メカニズムと同一機序によって細胞障害が惹起されることが確認できた.現在,MH発症の予見は骨格筋生検によって侵襲的に行われている.RyRlを構成的に発現する血液細胞である単球を利用して,より低侵襲なMH発症予測検査法を開発するための重要な基礎的所見が得られた.
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