研究概要 |
本研究の目的はリアノジン受容体(RYR1)を構成的に発現するヒト単球系細胞THP-1を使用し,ネクローシスを指標として悪性高熱症(MH)素因者を予測する新たな検査法を開発することである. 1.RYR1刺激薬による細胞内Ca濃度([Ca^<2+>]_i)上昇の確認.RYR1刺激薬はCa-induced Ca-release(CICR)を増強し,[Ca^<2+>]_iを増加させる.ふたつのRYR1刺激薬(ブピバカインとカフェイン)による[Ca^<2+>]_i変化を蛍光Ca指示薬Fluo-3を用いて測定した.両者とも刺激後短時間で[Ca^<2+>]_iを増加した. 2.異なるRYR1刺激薬によるネクローシス発生の相違.われわれは「RYR1刺激薬は持続的[Ca^<2+>]_i上昇を通してネクローシスを惹起する」と考え実験を遂行してきた.しかしながらブピバカインはTHP-1のネクローシスを惹起したにも関わらず,カフェインは発生させなかった。これらのことから,RYR1刺激薬による[Ca^<2+>]_i増加は,ネクローシス発生の直接的原因ではないと考えられた, 3.異なるRYR1刺激薬によるミトコンドリア膜電位の相違.一部のRYR1刺激薬により惹起される細胞障害の分子機構を探索するため,ミトコンドリア膜電位を測定した.ブピバカインは同膜電位を低下させたが,カフェインは影響を与えなかった. MHの特徴的な臨床症状である横紋筋融解症は,MH発症時にRYR1発現細胞にネクローシスが発生することを示唆している.MHの発症原因としてCICRの亢進が注目されてきたが,今回の検討からはRYR1発現細胞であるTHP-1の細胞障害はCICRではなく,ミトコンドリア障害が原因と考えられた.MH発症の分子機構は未だ不明な点が多い.今回の検討からCICRのほかにもミトコンドリア障害の関与も検討する必要があると考えられた.
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