研究概要 |
生体に手術侵襲が加わるとグルタミン酸受容体の一種であるN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体を介して中枢神経系の感作が生じ、疼痛閾値の低下や術後痛の増強が生じる。しかし、痛覚過敏反応の発現に関与するNMDA受容体の活性化のメカニズムについては明らかになっていない。近年、DセリンがNMDA受容体グリシン結合部位の内在性リガンドでありNMDA受容体の機能を亢進することが知られてきた。本研究では、術後疼痛時においてDセリンがどのように作用するかについて、術後痛モデルラットおよびDセリン合成酵素遺伝子ノックアウトマウスなどを用いて明らかする目的で行った。術後痛モデルラットは、7週齢雄性ラット後肢足底を筋膜まで切開、筋肉を剥離し、皮膚を5-0ナイロン糸にて2カ所マットレス縫合を行い作成した。術後5日から7日にかけて疼痛閾値の有意な減弱が観察された。術後3日から5日のモデルラットの脊髄においてDセリン合成酵素(セリンラセマーゼ,Srr)およびDアミノ酸酸化酵素(DAO)のmRNA発現量が亢進した。また、術後痛モデルラット髄腔内にDセリンを投与した場合、有意な疼痛増強効果は観察されなかったが、Dセリン結合部位アンタゴニストL-801,723を髄腔内投与したところ、有意に疼痛閾値の低下が減弱された。これらの結果は、術後痛モデルラット髄腔内でDセリン量が増加し、疼痛閾値の低下、すなわち疼痛の増強が起こっていることを示唆している。
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