下行性ノルアドレナリン神経は脳幹に存在するカテコラミン神経核群であるA5からA7神経核に位置している。これらのノルアドレナリン神経は脊髄の痛覚情報処理に対する上位中枢による調節の一端を担う重要な神経回路であり、難治性の慢性疼痛である神経障害性疼痛の緩和において重要な標的と考えられる。これら神経核の神経障害性疼痛への関与を検討するために、まず青斑核(A6)においてノルアドレナリン合成の律速酵素であるチロシンヒドロキシラーゼの免疫染色を行った。坐骨神経結紮による神経障害性疼痛モデルラットにおいて疼痛発症後、この酵素の免疫染色像に顕著な変化は見られなかった。更に青斑核の賦活により鎮痛作用が得られるかを確認するために、留置カニューレを介して薬物投与を行った。青斑核ノルアドレナリン神経にはNK-1受容体が強く発現していることから、そのリガンドであるサブスタンスPを投与した。その結果、NK-1受容体の活性化により神経障害による機械的アロディニア及び熱性痛覚過敏の両方を緩和できる事が明らかになった。この鎮痛作用は神経障害側と同側の青斑核を刺激する事により得られた。更に、留置カテーテルを介して微量投与を行うことにより青斑核特異的に薬物を作用させることが可能にした。この作用は脊髄におけるノルアドレナリン神経伝達を介していることを見出した。このことから、下行性ノルアドレナリン神経を特異的に活性化することが神経障害性疼痛の緩和に結びつくことが示された。
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