本研究は、ドコサヘキサエン酸(DHA)のβ-エンドルフィン遊離を介した抗侵害作用機序の解明を目的として、長鎖脂肪酸受容体GPR40に着目し、これらを介した疼痛制御機構を解明することを目的とした。 はじめに、中枢神経系における長鎖脂肪酸受容体GPR40のタンパク質発現を明らかにするためにwestern blot法を用いて検討を行なったところ、大脳皮質、中脳、延髄、視床下部、海馬、嗅球、線条体そして小脳と幅広くタンパク質発現を確認することができた。特に、視床下部、中脳および延髄においては、他の部位と比べて多く発現していることを見出した。 次に、中枢神経系に発現しているGPR40が疼痛制御機構に関与しているかについて、GPR40およびGPR120の選択的アゴニストGW9508を用いて検討を行ったところ、ホルマリン試験においてGW9508の脳室内投与はホルマリン誘発疼痛行動を用量依存的に抑制することを明らかにした。さらに、この疼痛行動の抑制はオピオイド受容体拮抗薬や抗β-エンドルフィン抗血清の前処置によって有意に抑制されることから、これらの機序に、オピオイド神経系が関与している可能性も示唆された。さらに、β-エンドルフィンの免疫組織学的検討より、DHAおよびGW9508を脳室内投与後に視床下部弓状核においてβ-エンドルフィン陽性領域の増加が認められた。したがって、GPR40がβ-エンドルフィンの分泌に関与している可能性が示唆される。 これらの結果より、DHAによる抗侵害作用の発現には脳内GPR40を介したβ-エンドルフィンの遊離が関与している可能性が示された。さらに、脳内GPR40が疼痛制御機構を担う新たな標的分子となる可能性が示された。
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