我々は以前に膀胱癌の発癌、浸潤にPTEN-PI3K-AKT経路が寄与している可能性が高いことを示したが、この経路の活性化には、外部からの成長因子やサイトカインといった入力が不可欠である。サイトカインも尿中には十分含まれていると考えられ、これらの入力が刺激となって膀胱癌の浸潤、あるいは転移が加速される原因の一つになっている可能性がある。特に炎症性サイトカインのうち、RANTES(CCL5)やMCP-1(CCL2)は、癌細胞から分泌されて、腫瘍細胞自身のmotilityを高めるだけではなく、腫瘍細胞にとって都合のよい微小環境を作りあげることが報告されている。膀胱癌においても、慢性の尿路感染症は膀胱癌発癌のリスクファクターであり、長期間の尿中の炎症性サイトカインの曝露により発癌や癌の浸潤、転移過程にも関与している可能性は高いと考えられる。 22年度の研究では、まず健常人と膀胱癌患者の尿中RANTESの濃度を比較し、膀胱癌患者の尿中RANTESの濃度が有意に上昇していることが確認できた。また比較的悪性度の低い膀胱癌でも有意な上昇を認めていることから、膀胱癌の早期発見につながる新たな腫瘍マーカーとしての可能性が示唆された。また、膀胱癌の悪性度、浸潤度と尿中RANTESの濃度も相関関係にあった。さらにRANTESの主な受容体であるCCR5の膀胱癌組織における免疫染色でも染色度と膀胱癌の浸潤度は極めてよく相関したことから、RANTESやCCR5は膀胱癌の進行過程において重要は役割を果たしている可能性が示唆された。
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