研究課題
再生医療研究において、治療過程で生じる副次的な傷害によって機能障害を受けた臓器、器官組織の再生を目指した研究は、ほとんど皆無である。骨盤内臓器癌の放射線治療によって排尿障害が生じた膀胱に対して、骨髄由来細胞移植による機能的な膀胱の再生を目指している。昨年度の研究成果として、個体差がなく、再現性が得られるラット放射線照射障害膀胱モデル作製の確立に成功した。本年度は、そのラット放射線照射障害膀胱モデルを用いて骨髄由来細胞移植の効果について検討した。細胞を移植するモデル(レシピエント)は、全身麻酔をかけた10週齢雌SDラットを保定台に乗せ、鉄版(自作)をあて全身を保護し、恥骨結合部に接する直径1cm円内に2グレイの放射線照射量を毎週1回の照射を5回繰り返した後、2週間通常飼育を行ったものである。この放射線照射障害膀胱モデルは、放射線照射しなかった正常ラットと比較して、膀胱収縮圧のパラメーターには変化がなかったが、一回排尿間隔時間と残尿量において統計学的有意な遅延と増大などの排尿障害が認められた。また、組織学的解析において、放射線照射した膀胱では、平滑筋層と、神経線維が有意に減少した。この放射線照射障害膀胱モデルを作製するとともに、骨髄由来細胞を移植し、組織が再生されるのか、排尿障害が改善するのか検討した。骨髄由来細胞を移植すると、平滑筋層と神経線維が再生され、また、再生された組織には、移植した一部の細胞で、平滑筋細胞、あるいは、神経細胞への分化を認めた。膀胱内圧測定において、細胞を移植した膀胱では、一回排尿間隔時間が正常な膀胱機能と同等のレベルに回復し、残尿量が細胞を移植しなかった対照群と比較して、有意に低下することを確認した。本研究によって、放射線治療後の膀胱機能障害に対して、骨髄由来細胞移植は、排尿障害の改善に伴うQOLの向上など、患者にとって有益な治療となり得る可能性を見いだした。
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