研究概要 |
VHL遺伝子変異腎細胞癌細胞株であるSMKT-R2,SMKT-R3では正常酸素下でPHD3が安定して発現していた。一方、VHL野生型株Caki-1では正常酸素下でPHD3の発現が不安定であり、in vitroで細胞密度が低い状態でのみ発現が亢進しており、コンフルエントの状態では発現が低下していた。Caki-1におけるPHD3の発現はPI3k阻害剤であるLY294002およびmTOR阻害剤であるrapamycinにより阻害された。以上よりCaki-1におけるPHD3発現はPI3k/Akt/mTOR系路に依存していることが分かった。また、PHD3の発現にはHIFタンパクの発現を伴ってはおらず、HIF-1/HIF-2ダブルノックダウンにおいてもPHD3の発現に変化は見られなかった。以上から、Caki-1におけるPHD3発現はHIFに依存しないことが分かった。また、Caki-1 PRD3ノックダウンにより、in vitroで細胞増殖が増進する事が明らかとなった。SMKT-R2,SMKT-R3においても同様の結果が得られた。またACHNでは通常PHD3の発現が見られないが、PHD3強制発現株では細胞増殖が低下していた,以上からPHD3はHIFに非依存性に細胞増殖抑制作用を有することが明らかとなった。従来PHD3はHIFの機能を制御する水酸化酵素として知られてきたが、本研究により新たな発現系路、および機能が明らかとなった。 腎細胞癌患者22例において21例(95.6%)で腫瘍組織のPHD3の発現を認めた。腎細胞癌患者の術前血清の抗PHD3抗体価は0.610±0.023であり、健常者は0.591±0.031であった。腎細胞癌患者で有意に高値であった(p=0.0011)。抗体価と腫瘍体積、異型性などには関連は見いだせなかった。腎細胞癌患者17例の術前後の比較では全例で抗PHD3抗体価の減少を認めた(0.622±0.023 vs 0.580±0.024, p<0.0001)。PHD3は腫瘍抗原として腎細胞癌患者免疫系に認識されており、その抗体価は同一個体において腫瘍体積を反映している可能性があり、血清腫瘍マーカーとなる可能性が示唆された。
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