研究概要 |
VHL遺伝子変異腎細胞癌細胞株では正常酸素下でPHD3が安定して発現していたが、VHL野生型株Caki-1では正常酸素下で細胞密度が低い状態でのみ発現が亢進していた。Caki-1におけるPHD3の発現はPI3k阻害剤であるおよびmTOR阻害剤により阻害された。以上よりCaki-1におけるPHD3発現はPI3k/Akt/mTOR系路に依存していることが分かった。また、PHD3の発現はHIF-1/HIF-2ダブルノックダウンにおいてもPHD3の発現に変化は見られなかったことから、Caki-1におけるPHD3発現はHIFに依存しないことが分かった。また、Caki.1PHD3ノックダウンにより、in vitroで細胞増殖が増進する事が明らかとなった。SMKT-R2,SMKT-R3においても同様の結果が得られた。またACHNでは通常PHD3の発現が見られないが、PHD3強制発現株では細胞増殖が低下していた。以上からPHD3はHIFに非依存性に細胞増殖抑制作用を有することが明らかとなった。従来PHD3はHIFの機能を制御する水酸化酵素として知られてきたが、本研究により新たな発現系路、および機能が明らかとなった。腎細胞癌症例における免疫染色による検討でも、PHD3発現症例は無再発生存率が有意に良好であった。 腎細胞癌患者血清での検討では、術前の抗PHD3抗体価は0.610±0.023であり、健常者に比し有意に高値であった(p=0.0011)。腎細胞癌患者17例の術前後の比較では全例で抗PHD3抗体価の減少を認めた(0.622±0.023vs0.580±0.024,p<0-0001)。PHD3は腫瘍抗原として腎細胞癌患者免疫系に認識されており、その抗体価は同一個体において腫瘍体積を反映している可能性があり、血清腫瘍マーカーとなる可能性が示唆された。
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