膀胱癌におけるBCG療法のメカニズムを明らかにするため、研究を行った。結果は、ヒト膀胱癌細胞株であるRT4、5637、T24にフォルスコリンを投与し、H.E染色で検鏡すると、フォルスコリンの濃度依存的にBCG菌の感染が抑制されていた。そこで、フォルスコリン100μMで処理した細胞からタンパクを抽出し、ウエスタンブロット法でPKAの発現量を検討するとnon-treatの細胞と比較し、フォルスコリン処理した細胞で、PKAの発現が約2-3倍増加していた。しかし、実験の手技的な問題かはっきりしないが、結果の再現性が取れなかった。次に、BBN誘発膀胱発癌モデルマウスにBBN投与8週からBCGおよびフォルスコリンをそれぞれ膀胱、腹腔に投与した。BBN投与26週で膀胱を摘出し、膀胱重量を測定した。膀胱重量はフォルスコリン非投与群とフォルスコリン投与群で2.68gと2.83gであった。フォルスコリン非投与群で膀胱重量が少ない傾向を示した(フォルスコリン投与により、腫瘍増殖効果が促進される傾向を示した)が、有意差は認めなかった。膀胱組織におけるPKAの発現を免疫染色で検討すると、フォルスコリン非投与群と比較し、フォルスコリン投与群の膀胱basal cellにPKAの発現を強く認めた。私たちはBCG菌の感染率が、個体の持つcAMPレベルの違いにより異なるため、BCGの奏効率に違いが出ると仮説を立てた。私たちが行った実験結果から、cAMPを介してBCG菌の感染が妨げられ、抗腫瘍効果が得られにくい傾向があることが分かった。またcAMP活性剤であるフォルスコリンを投与することによって、cAMPの下流に存在するPKAが活性化され、腫瘍増殖効果が増強されることが示唆された。ただ、現段階では、有意差をもった実験結果ではないため、さらなる検討を要すると考えられた。
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