Pax2遺伝子をES細胞に遺伝子導入をし、目的の細胞に分化する可能性のある遺伝子導入ES細胞を前年度までに確立した。さらにES細胞から腎臓への分化誘導系を確立することを最終目的に、そのES細胞を用いて腎発生機構を明らかにするために培養条件を検討し、条件の違いにより発現する遺伝子の違いが明らかになった。 1.Pax2遺伝子導入ES細胞およびEBの遺伝子発現の確認 ディッシュに平面培養したES細胞を回収し、mRNAを抽出し、SuperScript IIIキットにて逆転写反応を行った。得たcDNAでPCR反応を行った。この時、遺伝子未導入ES細胞を対照とし、増幅DNAバンドの有無などで判断した。他の腎発生の各段階で発現してくる遺伝子に変化がないかどうかをRT-PCR法を用い確認し、尿細管において水輸送に重要な働きをするAQP1と、腎発生で重要な働きをするIntegrin α8の上昇を認めた。 2.Pax2遺伝子導入ES細胞およびEBのマウスへの移植 上記実験で得たES細胞およびEBを免疫不全マウスであるSCIDマウスの腎被膜下に移植を行った。今回の検討ではteratomaの形成を認めた。HE染色、免疫染色において移植組織内の明らかな腎組織を認めなかった。 3.新規培養条件の検討 糸球体や尿細管の構成細胞を形成させる培養条件を検討した。Activin A、レチノイン酸を添加した培養液中で、Pax2遺伝子を強発現すると、RT-PCRにおいて、尿細管形成にPax2と協調して働くPax8の上昇と、足細胞のマーカーであるPodcinの上昇を確認できた。 以上から腎構成細胞で濾過や再吸収など中心的役割をする細胞を分化誘導出来た可能性が示唆された。
|