平成24年度はMYCマウスの前立腺標本を用いてMYCマウスの自然史についてさらに詳細な組織学的検討を行った。MYCマウスでは生後4週でprostatic intraepithelial neoplasia(PIN)を生じ、生後1年で前立腺癌を生じることを確認した。生後2年まで観察を継続したが、他臓器への転移を認めなかった。また、これまでの前立腺癌マウスモデルでは認めなかった核小体の腫大がMYCマウスのPINや癌において認められ、組織学的にヒトの前立腺癌に類似しているものと考えられた。また、PINから浸潤癌に移行する段階の初期浸潤癌のような病変を同定することができた。ヒト前立腺癌では発癌過程を組織学的に検討することは困難であり有意義な結果であると考えられた。また、本研究の主目的である癌の化学予防についても、MYCマウスの自然史を踏まえた上で研究を進めることができ、効率よく化学予防の効果を評価することが可能となったと考えられる。また、Androgen receptor(AR)の発現を各週齢で検討したが、浸潤癌においてもARの発現は保たれていた。この所見もこれまでのマウスモデルには認めない、ヒト前立腺癌に類似した組織学的特徴と考えられた。 また、炎症細胞と発癌との関連が報告されているが、MYCマウスの発癌過程においてCD45(白血球のマーカー)やF4/80(マクロファージのマーカー)陽性の細胞が増加しており、発癌との関連が示唆された。これらの知見は前立腺発癌のメカニズムの解明につながり、化学予防実験を施行する上でも重要な知見となることが予想される。前立腺癌の化学予防については現在までカテキン、5α還元酵素阻害薬によりMYCマウスの発癌やPINを予防できる可能性について検討中である。平成24年度中に結果を得ることはできなかったが、引き続き研究を行っていく予定である。
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