研究概要 |
【膀胱癌組織におけるAhRの発現の臨床的意義の解明】 慶應義塾大学病院で膀胱癌に対して施行した膀胱全摘除術による膀胱癌臨床検体56例を用いて、芳香族炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor : AhR)の免疫染色を施行し臨床病理学的に検討を行い、脈管浸潤を認める症例においてAhRの発現が有意に高い事を明らかにした(p<0.05)。当教室は、膀胱と同じ尿路上皮から発生する上部尿路上皮癌において、AhRの発現と脈管浸潤が相関しそれぞれが予後を予測する独立した因子であることを報告している。本研究により膀胱癌においても上部尿路上皮癌と同様にAhRが予後を予測する因子である可能性が示唆された。 【膀胱癌細胞株を用いたAhRの機能解析】 realtimeRT-PCRにてmRNAの発現量を定量した。AhRのリガンドである2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ダイオキシン(TCDD)の膀胱癌細胞T24への投与により、AhRの発現は50.0%増加した(p<0.05)。また、siRNA導入によりAhRの発現は89.0%低下した(p<0.05)。AhRの発現量の調節が細胞周期・アポトーシスに与える影響は、T24においては認められなかった。AhRの発現量増加は、MMP-1、MMP-9の発現量をそれぞれ増加させ(187.6%、98.3%、p<0.05)、またAhRの発現量低下はMMP-1、MMP-9の発現量をそれぞれ低下させた(92.3%、94.8%、p<0.05)。Matrigel invasion assayを用いた検討では、T24の浸潤がTCDDの投与により68.6%亢進し(p<o.05)、siRNA導入により52.8%低下した(p<0.05)。 【本研究の成果】 膀胱癌においてAhRが浸潤と深く関わる可能性が示唆され、AhRを標的とした新規治療が期待される。
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