これまで当教室では、Angiotensin II(Ang II)Type I受容体(AT1R)が血管新生と関与する所見より、泌尿器科癌におけるAT1Rの発現やAngII-AT1Rシグナルの解明を行ってきた。また膀胱癌マウス皮下腫瘍モデルにおいてAng II receptor blocker(ARB)と抗癌剤(CDDP)の併用療法について検討を行い、CDDP存在下でのARBの著明な抗腫瘍効果の増強を報告した。CDDPを中心とする抗癌剤投与に伴うVEGFの発現亢進が以前より報告されているが、その機序に関しては多くは解明されていない。心血管系の分野では、Reactive oxygen species(ROS)上昇に伴うAT1Rの発現誘導が報告されており、またCDDPは強力なROS誘導の因子であることから、CDDP・ARB併用療法の著明な抗腫瘍効果の相互作用としてCDDP投与に伴うROS上昇とAT1R-VEGF発現誘導の可能性を考えた。ヒト浸潤性膀胱癌細胞株癌T24を用いCDDPの投与後のAT1Rの発現量の変化を確認したところ、CDDP投与群では約2倍の上昇を認めた。ELISAにおいてAT1R発現と相関してAng II依存性のVEGF上昇が認められた。次にCDDP投与に伴うROS上昇をFree radical scavenger(FRS)にて抑制しAT1R発現の変化を検討したところ、CDDP投与に伴うAT1R上昇はFRS投与により有意に抑制された。以上より化学療法が必要である浸潤性膀胱癌患者においてCDDPとARBの併用を行うことは更なる治療的効果の得られる可能性が示唆され、その相互作用のメカニズムとしてCDDP投与に伴うROS上昇がAng II依存性の血管新生亢進に関与していると思われた。現在、有効な代替治療の存在しないCDDP抵抗性膀胱癌へのARBを用いた新規治療の可能性の検討中である。
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