研究概要 |
本研究は新規樹立した日本人前立腺癌細胞株JDCaPを用い,その分子細胞学的性格の解析とホルモン抵抗性獲得の機序の解明を目的とする。本年度はJDCaPのホルモン抵抗性株の樹立に成功し,その分子細胞学的解析を行った。 1)ホルモン抵抗性株の樹立 JDCaPホルモン抵抗性株を樹立するために,マウス皮下にJDCaPを移植し,生着後,外科的去勢術を行った。腫瘍は縮小後に痕跡状の皮下腫瘤となったが,半年後再増殖を認めた。計20匹のJDCaP皮下移植マウスを去勢し,2系統のホルモン抵抗性株を認めた。これらの腫瘍それぞれを雌マウス,雄マウス皮下へ移植し,雄マウスは皮下腫瘤を触知後,外科的去勢術を行い,腫瘍の再増殖を観察した。それぞれの腫瘤は一定期間の後に増殖を認めたため,同様な方法で継代を繰り返し,安定系を確立した。これらの樹立したホルモン抵抗性株をJDCaP-hr1,JDCaP-hr2とした。 2)ホルモン抵抗性株の解析 本解析には樹立したホルモン抵抗性株のなかで,生着率の高いJDCaP-hr1を用いた。親株であるJDCaPはAR陽性,PSA陽性,PTEN陰性,ERG陽性,TMPRSS2-ERG fusion陽性であったため,これらの分子学的プロファイルが温存されているかを解明するために,AR,PSA,PTEN,ERGの発現を免疫組織染色およびreal-timePCRで検討した。JDCaP-hr1ではこれらの蛋白およびmRNAの発現はすべて陰性であった。さらに,TMPRSS2-ERG fusionについてFISH法で解析した。JDCaP-hr1において,TMPRSS2-ERG fusionは認められず,JDCaP-hr1のホルモン抵抗性獲得の機序は,アンドロゲン除去環境の中でJDCaPでは優性であったTMPRSS2-ERG fusion陽性の細胞群からfusion陰性の細胞群に置換された事が示唆された。
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