研究概要 |
腎細胞癌(RCC)における増殖・進展の機序のひとつにVHL-HIF経路があり、HIFからVEGF,PDGF等の増殖因子が産生されるHIF-VEGF経路が小胞体ストレス応答の制御下にあるとの報告がある。腎細胞癌においても小胞体ストレス応答における重要な役割を担うGRP78の発現増強が新たに報告されている。そこでまず平成22年度は腎癌検体を用いてGRP78の発現の程度を観察し、臨床・病理双方の因子との相関を見ると同時に、腎癌細胞株におけるGRP78発現の程度、小胞体ストレス応答タンパクとその関連タンパクの発現につき検討した。 128例の原発性腎癌検体(120例;淡明細胞癌,8例;非淡明細胞癌)と9例の転移性腎癌検体を用いて免疫組織化学染色を行った。GRP78陽・陰性の判定は染色の強度と染色細胞の割合に基づいて行い、その陽性度と臨床病理学的因子との関連を検討した。その結果、GRP78は全128例中71例(55.5%)で、転移巣では9例中8例(88.9%)で、非淡明細胞癌では8例中7例(87.5%)で陽性であった。GRP78陽性は、悪性度、腫瘍進達度、静脈浸潤、所属リンパ節転移、遠隔転移と有意な相関があり、癌特異的および無増悪生存率は、全患者ならびに淡明細胞癌症例においてGRP78陽性群で有意に不良であった。 腎癌細胞株を用いた基礎実験では、腎癌検体同様Caki-1,7860,A498,769Pと代表的な細胞株においてGRP78は発現しており、小胞体ストレス応答タンパクの中ではIRE1の発現が強く、その発現を増減することでHIF1,2の発現も連動して増減するようであったが、この結果については今後も追試が必要であると思われる。
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