子宮内膜への受精卵の着床は妊娠成立の第一歩であり、高度生殖補助医療を用いても妊娠に至らない難治性不妊症の原因となる着床障害は解明すべき喫緊の課題である。着床は炎症反応を中心に様々な物質により時間的空間的に緻密に制御されており、肥満・やせの体重異常は生殖機能を低下させ不妊となる。肥満・やせの代謝障害は、脂肪細胞由来の生理活性物質アディポサイトカインの産生・分泌異常を惹起し、子宮内膜での炎症反応の制御異常などを介して着床を障害することが示唆されている。メトフォルミンは、アディポサイトカインの1つであるアディポネクチンと同様にAMPキナーゼ(AMPK)を介して作用する糖尿病治療薬で、インスリン抵抗性改善作用の他に抗炎症作用や癌抑制効果、ステロイド合成調節作用を持つ。本研究では、着床・妊娠成立におけるアディポサイトカインの役割とメトフォルミンの作用を明らかにし、着床障害の機序解明と治療につなげたい。 子宮内膜におけるメトフォルミンの着床障害改善作用について調べるために、子宮内膜組織・細胞を用いて、メトフォルミンがAMPKの発現・リン酸化を介して着床にどのように影響するかを検討した。良性婦人科疾患の手術患者より書面によるインフォームドコンセントを得た上で、子宮内膜組織より子宮内膜上皮細胞・間質細胞を分離培養し、得られた細胞にメトフォルミンを添加し、AMPKの発現・リン酸化をWestern blot法を用いて確認した。また、不妊症の有無によるAMPKの発現の差異を調べるために、子宮内膜組織におけるAMPK・リン酸化AMPKの発現を免疫組織化学染色法で検討し、不妊症の有無で比較した。着床期子宮内膜のリン酸化AMPKの発現は不妊症患者では不妊症ではない女性に比べ低下している傾向が認められ、AMPKのリン酸化が着床に促進的に関与している可能性が示唆された。
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