1.TAMが卵巣癌細胞株に与える影響の解析 卵巣癌患者より採取した腹水からCD11bで分離したマクロファージ(TAM)は、卵巣癌予後因子の一つであるインターロイキン6(IL-6)を分泌していることをELISA法にて確認した。 種々の卵巣癌細胞株においてIL-6およびIL-6受容体(IL-6R)が発現していることをwestern blotting法ならびにreal time RT-PCTR法にて確認した。実験ではSKOV3ip1細胞を用いた。 増殖能をMTS assayにて検討するに、SKOV3ip1はTAMとの共培養により増殖能が約1.3倍に亢進した。SKOV3ip1はTAMのない状態でIL-6刺激を加えても増殖能が約1.5倍に亢進した。また、浸潤能をinvasion assayにて検討するに、SKOV3ip1はTAMとの共培養により浸潤能が約8.4倍に亢進した。SKOV3ip1はTAMのない状態でIL-6刺激を加えても浸潤能が約3.8倍に亢進した。TAMとの共培養により亢進したSKOV3ip1の増殖能・浸潤能は抗IL-6R抗体であるtocilizumabにより増殖能は約7%、浸潤能は約33%抑制された。TAMの分泌するIL-6がSKOV3ip1の増殖・浸潤を促進し、tocilizumabがこれらを抑制することが示唆された。 血管新生促進因子であるVEGFの発現をELISA法にて検討するに、SKOV3ip1はTAMより約10倍以上高濃度にVEGFを発現していた。また、SKOV3ip1はTAMのない状態でIL-6刺激を加えるに要領依存的にVEGFの発現が最局で約3倍に亢進した。IL-6により血管新生が促進する可能性が示唆された。 2.抗IL-6R抗体による卵巣癌に対する治療効果の検討(in vivo) SKOV3ip1をヌードマウスに腹腔内投与した卵巣癌腹膜播種モデルにtocilizumabを投与し、治療効果を腫瘍重量・播種病変数・腹水産生量で検討した。tocilizumabを投与したマウス(治療群)はコントロール(非治療群)に比して、腫瘍重量・播種病変数はそれぞれ約30%に抑制され、腹水産生量はほぼ0となった。tocilizumabはIL-6を標的とした卵巣癌の治療薬となる可能性が示唆された。 3.卵巣癌患者のtissue microarrayと予後データベースの作成 卵巣癌患者のtissue microarrayを作成した。これを用いて、平成23年度には1)TAMの局在・腫瘍内密度と播種病変、卵巣癌の病期、予後との関連2)IL-6の発現と卵巣癌の病期、予後との関連を検討予定である。
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