研究概要 |
上皮性卵巣癌において粘液性腺癌や明細胞腺癌は漿液性腺癌に比較して抗癌剤感受性が低く予後不良と考えられている。腫瘍の生物学的特性に基づいた治療の個別化や組織型別の治療法選択の必要性が指摘されている。粘液性卵巣癌の生物学的特性と抗癌剤耐性機序を明らかにして,新たな治療法を開発することを目的とした。卵巣癌細胞株(KF,KFr,SK-OV-3,SHIN-3,TU-OS-3,TU-OS-4,KOC-2S)を用いて,MTT assayによりシスプラチンのIc50を算出した。シスプラチン耐性誘導株であるKFrより高いIc50を示す細胞株をシスプラチン低感受性株として以下の検討をおこなった。 Western blot法により各細胞株のシグナル伝達関連蛋白(MEK,p-MEK,ERK,p-ERK,Akt、p-Akt)の発現を検討した結果,全ての細胞株においてp-MEK,p-MRK,p-AKt発現が観察された。そこでシグナル伝達作用薬を用いて,シスプラチンとの併用効果を検索した。PI3K阻害薬LY294002によりシスプラチン感受性は軽度増強したが,MEK阻害薬PD98059によりシスプラチン感受性の低下がみられた。一方,MRK/ERK賦活剤PMAを併用すると低感受性株で有意なシスプラチン感受性増強が得られた。低感受性株では,シスプラチンとPMA併用添加群でp-ERK,活性型Caspase-9の発現が増強していた。フローサイトメトリーによる細胞周期の検討では,PMAによりS期細胞比率の増加がみられ,シスプラチンとPMA併用添加群で著明なアポトーシス誘導が観察された。また細胞周期に関与するChk1および2の発現を検索したところ,CDDP暴露後24時間後にはChk1,2発現の誘導が観察された.シスプラチンとPMAとの併用ではChk1,2の発現は減弱した. 卵巣癌細胞株を移植したマウスで癌性腹膜炎モデルを作成し,各薬剤を腹腔内投与した結果,腫瘍組織の免疫染色ではpERKの発現増強がみられ,western blot法でも同様の事象が確認された.シスプラチンとPMA併用添加は有意に但癌マウスの生存期間を延長した。以上より,上皮性卵巣癌のシスプラチン耐性克服にはERK経路の賦活が有効である可能性が示唆された。
|