卵巣明細胞癌および卵巣類内膜腺癌は同一組織切片内に子宮内膜症の共存が多いことから子宮内膜症が発癌母地である可能性が1960年代より推測されている。しかしながらその発癌課程についての詳細は現在に至っても解明されていない。よって本研究は当該腫瘍における子宮内膜症からの発癌機構について解明することを目的としている。これまでの研究から卵巣明細胞癌および付随する子宮内膜症細胞には17番染色体または17番染色体上の遺伝子に異常が検出されることを解明している(Akahane T et al.Gyne Path 2007)。よって本年度は同染色体上に存在するHepatocyte Nuclear Factor 1β(以下HNF1β)に注目して研究を行った。対象として卵巣癌患者症例165例、卵巣癌および子宮体癌由来培養細胞株各3株についてHNF1β蛋白発現を免疫組織学的手法およびwestern blotting法にて検出し、組織内の核内陽性細胞をカウントおよび検出バンドをImageQuantTL解析ソフトにて数値化して定量化し臨床病理学因子との比較を行った。 その結果、HNF1βは卵巣癌のなかでも卵巣明細胞癌に特異的発現し(p<0.001)、さらに培養細胞株においても同様の結果を得た。臨床病理学的因子との比較においてはHNF1β高発現患者には腹腔内癌細胞出現率が有意に陽性となり(p<0.01)、腹腔内癌細胞陽性患者は有意に予後が悪かった(p<0.05)。さらにHNF1β高発現例は子宮内膜症の共存が多く(p<0.016)、その組織型は優位差をもって卵巣明細胞癌例が多かった(p<0.013)。 本検討よりHNF1βは卵巣癌において明細胞癌特異的マーカーであり卵巣明細胞癌例においては子宮内膜症からの発癌機構にも関与している可能性が示唆された。
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