本研究はヒト胎盤栄養膜において特異的に発現しているmicro RNA(miRNA)遺伝子の分子機能および発現制御の解析を主に分子生物学および細胞生物学の手法を用いて行った。さらに、この胎盤特異的miRNAが、周産期医学において大きな課題の一つである子宮内胎児発育遅延(Intrauterine growth restriction : IUGR)においてどのような役割を果たしているかを明らかにする分子基盤研究を目的に研究を行った。1)ヒト胎盤栄養膜特異的miRNAの分子機能解析:これまでにヒト胎盤栄養膜特異的に発現していると明らかになっているmiRNAのいくつかをヒト胎盤絨毛癌由来の細胞株BeWoなどの培養細胞に過剰発現させたところ、そのうちの一つが配列特異的にアポトーシスを誘起するということが分かった。このことは胎盤でこのmiRNAが胎盤栄養膜の成熟、妊娠の生理的終結、胎盤不全による異常妊娠などに重要な役割を担っていることを示唆する結果なのではないかと考えている。2)ヒト胎盤栄養膜特異的miRNAの発現制御解析:ヒト胎盤栄養膜特異的miRNA遺伝子はゲノム上でクラスターを形成しており、その上流域にDNAメチル化サイトが存在する。そこで、このmiRNA遺伝子を発現していない細胞(HeLaなど)にDNA脱メチル化剤5-aza-2'-deoxycytidineを添加し、RNAを回収してリアルタイムPCRを行ったところ、miRNAクラスター遺伝子の発現の上昇を確認した。このことはヒト胎盤栄養膜特異的miRNAがエピジェネティックな制御を受けて胎盤特異的に発現していることを示している。
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