この研究は、栄養膜由来の胎盤特異的microRNA(マイクロRNA:miRNA)が、エクソゾームを介した栄養膜-T細胞クロストークにより、機能性RNAとしてT細胞で機能するのか、分子生物学的手法を用いて明らかにするとともに、さらに、正常妊娠および異常妊娠(流産)において、制御性T細胞中にクロストークにより取り込まれた胎盤特異的miRNAが母児免疫寛容にどのように関与するのか検討することを目的に研究を行いました。1)基礎解析:胎盤特異的miRNA、miR-517aを取り込んだJurkat細胞におけるmRNAの発現変動に関して、マイクロアレイによる網羅的解析を行い、発現が低下した遺伝子のうち、コンピュータによる標的遺伝子候補解析から、cyclic GMP dependent protein kinase 1(PRKG1)が標的mRNA候補であることを見出しました。さらに、PRKG1 mRNAの3'-UTRをクローニングしたルシフェラーゼレポーターベクターによる標的遺伝子の実験的検証を行いました。その結果、miR-517aは、有意にルシフェラーゼ活性を低下させ、直接結合し抑制的に作用することが示されました。2)臨床解析(末梢血リンパ細胞に取り込まれた胎盤特異的miRNAの定量解析):末梢血から磁気ビーズシステムを用いて単核球細胞(リンパ球と単球)、Natural Killer細胞、細胞制御性T細胞の分離を行い、サンプル採取を進めました。分娩前後の母体末梢血単核球細胞を用いて、胎盤特異的miRNAの含有量をreal-timePCRにて定量解析したところ、分娩前の細胞において胎盤特異的miRNAが検出され、分娩4日後には細胞からクリアランスされていることを見出しました。この結果は、妊娠期間中、胎盤由来miRNAが母体血液細胞に移行していることを示している新知見です。
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