研究概要 |
トリプトファン分解酵素の一種であるインドールアミン酸素添加酵素(Indoleamine 2,3-dioxygenase; IDO)は,ヒトの肺,小腸胎盤などの多くの組織に分布し,種々の感染症や炎症で強く誘導される.IDOは免疫システムにおいて重要な役割を担っている.そこで,本年度は,胎盤および羊膜・絨毛膜・脱落膜におけるIDOの発現をWestern blotting法により検討したところ,胎盤では全検体ともIDO発現が認められたが,羊膜・絨毛膜・脱落膜では,ステロイド治療などを受けた特異的な検体のみに発現が認められた.特に胎盤におけるIDO発現は,妊娠初期で,妊娠中期・後期と比較すると低値を示した.また,絨毛膜羊膜炎(CAM)の病歴を有する妊婦の胎盤におけるIDO発現は,正常な検体と比べると高値を示した.一方,全身性エリテマトーデス(SLE)の病歴を有する妊婦の胎盤では低値を示した。さらに,通常分娩群(中絶,誘発分娩,吸引,通常分娩)と帝王切開群および緊急帝王切開群の3群におけるIDO発現の比較を行ったところ,緊急帝王切開群が他群と比べて高値を示した.これらの結果より,胎盤におけるIDOの発現には,妊娠週数,疾患の有無および分娩様式など様々な要因が関与することが示唆された.さらに,CAM感染により,炎症性サイトカインが産生され,子宮収縮物質であるプロスタグランジンが産生されることより妊娠中の早産の原因となることが報告されている.よって,CAM感染とIDO発現との関連性が明らかになれば,妊娠中の早産等の病態とIDO発現との関連性も見出せるのではないかと思慮する.
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