これまで頭頚部癌の治療は、手術・放射線・化学療法の3者を組み合わせて行われてきたが、進行症例では再発・転移をきたすことが多く予後は不良である。さらなる治療成績の向上には新たな治療の開発が急務である。近年、癌細胞が白血球に作用し、免疫を抑制的に制御することで癌細胞が免疫系から逃れ増殖しやすい環境を作り出していることが明らかになってきている。癌患者の末梢血にはT細胞の機能を抑制する白血球が増加することが報告され、骨髄球系の細胞表面分子を有することから骨髄由来抑制細胞(MDSC : myeloid-derived suppressor cells)と呼ばれている。ヒトでのMDSCの報告はいまだ少なく、その詳細は明らかになっていないが、近年、乳癌や胃癌ではMDSCの増加は予後を悪化させるとの報告がでてきており、MDSCをターゲットとする治療の開発は、新たな治療戦略となる可能性を持つと考えられる。 平成22年度において、頭頸部癌患者および健常者の末梢血を採取し、単核球分画(PBMC)を分離・回収しMDSC (HLA-DR(-)/Lin(-)/CD14(-)/CD15(+))の解析を行った。頭頸部扁平上皮癌未治療患者においてMDSCは健常者と比較しPBMC中に有意に増加し、病期の進行によりさらに比率の増大を認めた。またPBMC中のT細胞に対する抗CD3抗体および抗CD28抗体による刺激において、CD15(+)MDSCの除去により、活性化による分裂が促進されることが判明した。このことから頭頸部癌においてもMDSCは増加し、T細胞の活性化を抑え、抗腫瘍免疫を抑制的することが示唆された。さらに手術治療を行った症例では、MDSCの増加群と非増加群において、腫瘍組織中micro-RNAの網羅的な発現比較解析を行っており、今後mSCの増加や、腫瘍免疫の抑制に関与する遺伝子の探索を行う予定である。
|