組織学的に乳腺の浸潤性乳管癌に類似した唾液腺導管癌は非常に予後不良な癌である。唾液腺導管癌の治療については近年、HER-2レセプターが発現する唾液腺導管癌に対してトラスツマブの使用が試みられているが確固としたプロトコールが無く、治療方針の検討も未だ十分行われていない。唾液腺導管癌に対して、現在のゲノム科学の手法を駆使して、新規の治療法や診断法の開発に繋がる分子メカニズムの解析は非常に重要と考える。本研究ではゲノム解析の方法論を機能性RNA(タンパクコード遺伝子と非タンパクコード遺伝子)まで適応範囲を拡大し、新規の癌分子ネットワークの解析を行うものである。 2004年のヒトゲノム解読の結果、ヒトゲノム中にはタンパクをコードしない機能性RNAが数多く存在する事が明らかとなった。機能性RNAの中で、僅か19~21塩基の1本鎖RNAであるマイクロRNAは、タンパクコード遺伝子の発現を制御する事から注目されている分子である。そこで先ず、1991~2005年までに根治治療を行った耳下腺における唾液腺導管癌の臨床検体(2症例)からRNAを抽出し、これまでに癌抑制遺伝子として報告のある複数のマイクロRNA(miR-1、miR-133a、miR-145)について、発現の程度を調べた結果、miR-1とmiR-133aの発現が癌組織で抑制されている事を見出した。そこで、これらマイクロRNAを癌細胞(FaDu)に導入し、癌抑制遺伝子としての機能解析をいった。その結果、miR-1は細胞の増殖を顕著に抑制する事が判明した。 この事は、唾液腺導管癌においてmiR-1が癌抑制遺伝子として機能することを示唆する。今後、臨床検体を増やして癌抑制マイクロRNAの網羅的な探索を継続すると共に、miR-1が制御する癌分子ネットワークの解明を行う予定である。
|