上咽頭癌の悪性化とEBウイルスの潜在的膜蛋白であるLMP1との関連について検討した。これまでLMP1は多くの転移関連因子を誘導することで上咽頭癌の悪性化に関与していることを当教室のこれまでの研究でしめしてきた。しかし依然としてLMP1の詳細な機能は不明な部分が多い。 本研究ではLMP1のさらなる機能解明を目的とした。細胞核内において多くの遺伝子の発現調節を行っているSATB1蛋白に着目し、LMP1がSATB1の発現増強を起こすことを確認した。誘導されたSATB1蛋白はMTTアッセイで細胞増殖を亢進した。また血清の非存在下のもとアポトーシスを誘導した培養細胞において、LMP1発現細胞は親細胞に比べ有意にアポトーシスに抵抗性を示した。しかしLMP1発現細胞でSATB1をshRNAにより選択的に抑制すると、このアポトーシス抵抗性が現弱された。さらにこうした現象にはアポトーシス関連蛋白であるSurvivinが関与していることを突き止めた。すなわちLMP1→SATB1→Survivin→アポトーシス抑制といったシグナル伝達があることが分かった。 今回の研究でEBウイルス蛋白の一つであるLMP1が遺伝子発現調節蛋白であるSATB1を誘導することで細胞増殖能を亢進し、さらにアポトーシス抑制を引き起こすことを見出した。これは上咽頭癌においてLMP1の悪性化関与機構の一つの可能性を示唆した。今後はさらに先に示したシグナル伝達機構の詳細な解明を行う予定である。LMP1を介したシグナル伝達機構の全容を解明し、鍵となる分子を同定できれば、将来的には分子標的治療薬の開発へとつながるもの思われる。
|