先天性難聴は新出生児1000人に1人に認められる頻度の高い先天性障害の一つである。その原因の50%は遺伝子によるものと報告されており、現在までにおおよそ60種類の原因遺伝子が同定されており、一部が遺伝子診断として臨床で実施されている。遺伝子診断で得られた情報を適切に臨床にフィードバックするためには、さらに多くの症例にて日本人におけるSLC26A4遺伝子変異のデータベース化を行い、日本人における遺伝子変異の種類と頻度、遺伝子型と表現型の関連性につき明らかにすることが必要である。 本年度は、信州大学医学部耳鼻咽喉科の管理する日本人難聴遺伝子データベースに登録されている難聴患者のうち前庭水管拡大を示す難聴患者約100名を対象に臨床情報を収集するとともに、インベーダー法によるスクリーニング検査およびインベーダー法による遺伝子解析でヘテロ接合体変異のみ検出された症例を対象に、直接シークエンス法を用いてSLC26A4遺伝子の全エクソンの配列を決定することで新規遺伝子変異の探索を行った。その結果新規変異を含む複数の遺伝子変異を見出す事が出来た。また、これらの症例を対象に、カロリック検査およびVEMP検査を施行し、SLC26A4遺伝子変異による難聴症例の前庭機能(特に半規官機能および球形嚢の機能)に関するデータの収集を行った。また、各遺伝子変異の種類ごとにその聴力像・前庭機能評価結果のとりまとめを行い、遺伝子変異の種類と臨床像との相関解析を実施した。一般的に遺伝性難聴の場合に、フレームシフト変異やスプライシング変異の場合には難聴が重症となることが知られているが、SLC26A4遺伝子変異の場合にはミスセンス変異であっても聴力に大きな差が認められない事が明らかとなった。
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