内耳(聴覚系・末梢前庭系)には様々な神経伝達物質が分布しており、聴覚・平衡覚の維持に重要な働きをしていると考えられている。特に求心系ではグルタミン酸が主たる神経伝達物質と考えられている。中枢神経系においては、グルタミン酸作動性神経の神経終末と周囲のグリア細胞の間で効率的にグルタミン酸代謝を行うための「グルタミン酸-グルタミンサイクル」が存在していることがよく知られており、内耳においても感覚細胞と支持細胞間に中枢と類似した「グルタミン酸―グルタミンサイクル」が存在している可能性が推測されている。内耳に関しては、グルタミン、グルタミン酸の存在、グルタミン酸トランスポーター、グルタミン酸レセプター、各種酵素などの存在は報告されているが、グルタミントランスポーターに関しては現在までに報告がなく、グルタミン酸―グルタミンサイクルの全容は未だ解明されていない状況であった。 本研究では、グルタミントランスポーターであるSAT1、SAT2グルタミントランスポーターの存在およびその局在について組織免疫染色法および金コロイド付加抗体を用いた電子顕微鏡観察により検討を行った。その結果、SAT1、SAT2共に蝸牛では内有毛細胞に、前庭では感覚細胞層に認められることが明らかとなり、内耳においても神経伝達物質としてグルタミン酸を放出し、SAT1、SAT2にて支持細胞からグルタミンの取り込みメカニズムが存在することを明らかにした。またリアルタイムPCRを用いて、内耳におけるVGULT3、SINSの発現を確認した。このように、内耳および前庭においても、中枢と同様に効率的にグルタミン酸代謝を行うための「グルタミン酸-グルタミンサイクル」が存在することを明らかにした。
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