収集した鼻副鼻腔疾患患者の鼻汁中の遊離型組織因子と組織因子経路インヒビターの濃度を測定し、コントロール群、アレルギー性鼻炎群、慢性副鼻腔炎群、好酸球性副鼻腔炎群の4群で比較した。組織因子経路インヒビターはコントロール群に比較して好酸球性副鼻腔炎群で高値であった。また、鼻茸および下甲介粘膜の免疫染色で、上皮細胞と浸潤する好酸球の顆粒に組織因子が存在することを確認した。好酸球性副鼻腔炎の局所において組織因子経路インヒビター濃度が高値であったことや組織因子が鼻副鼻腔組織に確認できたことは、凝固および抗凝固系の活性化が上気道炎症に強く関わっていることを示唆した。 また、培養細胞を用いた検討では、正常ヒト気道上皮細胞にトロンビンを作用させると培養液中の組織因子および組織因子経路インヒビター共に濃度が増加することがわかった。トロンビン受容体のアゴニストでも同様の結果を得た。また、下鼻甲介より擦過採取した粘膜から鼻粘膜上皮細胞を培養し、トロンビンまたはトロンビン受容体アゴニストで刺激すると、上清中の組織因子経路インヒビターが濃度依存性に増加した。さらに、抗凝固剤ヘパリンの培養上皮細胞に対する抗炎症作用を上皮細胞株NCI-H292を用いて検討した。未分画ヘパリンと低分子ヘパリンはTNF刺激による上皮細胞からのMUC5AC、VEGF、IL-8産生を抑制することを確認した。ラットLPS鼻炎モデルへのヘパリン点鼻投与は杯細胞化生と好中球浸潤を有意に抑制した。さらにラットアレルギー性鼻炎モデルにおいてもヘパリン点鼻は杯細胞化生や好酸球・好中球浸潤を有意に抑制した。 以上、患者検体、培養細胞、動物モデルを用いた検討から、上気道炎症への凝固系因子の関与とヘパリンの消炎効果を示唆する結果を得ることができた。
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