中耳、特に耳小骨奇形は伝音性難聴による先天難聴の原因となり言語の発達に影響を及ぼすが、その奇形発生メカニズムは十分にわかっていない。ヘッジホッグシグナル伝達経路は、発生における形態形成や発癌といった生理的・病的な生命現象において重要な役割を演じていることが明らかとなっている。ヘッジホッグシグナル経路は分泌型タンパク質であるソニックヘッジホッグ(Shh)がPatched-1(PTCH1)と呼ばれる受容体に結合することから始まる。ShhとPTCH1の結合によって、Shh受容体複合体のコンポーネントであるSmoothened(Smo)の抑制がはずれ、Gli転写因子を介して様々な標的遺伝子の転写が活性化され生理機能を発揮する。 中耳・外耳発生におけるソニックヘッジホッグシグナル過剰発現の影響を調べるため、Emx2(+/Cre);Rosa26SmoM2トランスジェニックマウスを作成し、中耳・外耳を解析した。Emx2は脳・嗅上皮・内耳などに発現するホメオボックス遺伝子であり、このマウスは原理的にEmx2(Cre)が発現している特定の領域でヘッジホッグシグナルが持続発現するようにデザインされたものである。まずEmx2(+/Cre)マウスのCre発現活性を解析したところ中耳発生に関わる第一・第二鰓弓にその活性が認められ、また、発生が進むと中耳の一部、外耳道・耳介に認められた。Emx2(+/Cre)とRosa26SmoM2を交配させたEmx2(+/Cre);Rosa26SmoM2マウスは中耳・外耳発生に関わる第一・第二鰓弓でヘッジホッグシグナルが発現し続けるものであることがわかった。そこでヘッジホッグシグナル過剰発現の中耳・外耳発生への影響を確認するためこのEmx2(+/Cre);Rosa26SmoM2マウスの表現型を調べたところ、正常胎仔に比べ耳介が拡大していることが明らかとなった。
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