酸素は生きる為に欠かせない物であるが、吸い込んだ空気、即ち外気の酸素のセンサーもそのシステムも不明である。我々は気管上皮で酸素が感知されると仮説をたて、気管上皮における酸素センシングシステムに関する研究を開始した。 ところで味蕾は唾液に溶けた味物質を検出する化学受容器のひとつであるが、似通った構造物は舌だけではなく、例えば頸動脈分岐部にも存在し血中の酸素濃度を検知している。我々は気管上皮にも似たような細胞が存在することを発見した。さらにこの細胞は低酸素で増加することが示唆され、気管上皮のこれが世界で初の外気の酸素濃度のセンサーと考えられた。 gustducin は舌や消化器においてしばしば化学受容細胞に見られるためここでも化学受容細胞のマーカーとして用いた。免疫組織化学法、および in situ hybridization 法でマウス気管の上皮で gustducin 陽性細胞が確認され、またその特徴ある逆三角形の形から化学受容細胞にふさわしいと考えられた。 次にマウス気管上皮細胞を一次培養して様々な酸素濃度刺激による細胞の活性化をカルシウムイメージング法を用いて評価した。低酸素気体で刺激したところ一部の細胞でカルシウムの上昇が見られ、これらの細胞が酸素のセンシングに関与していると考えられた。 さらにマウス気管上皮を低酸素気体で刺激してルシフェラーゼ活性を利用したATPアッセイを行ったところATPの分泌が確認された。このことから酸素センサーシステムではATPが利用されていることが考えられた。次に我々は、ATP受容体の遺伝子操作動物を用いて検討を行った。その結果、このミュータントでは低酸素刺激による気管上皮の活性化が低下していると考えられた。これらのことから気管上皮の酸素センシングシステムではATPおよびATP受容体が重要な役割を担っていることが示唆された。
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