マウス嗅上皮の発生・再生機構を明らかにするために、まず成熟マウス嗅上皮の構造を観察した。嗅上皮の薄切標本とホールマウント標本を作成して蛍光免疫染色を行い、共焦点型レーザー顕微鏡を用いて観察した。嗅上皮を構成する支持細胞、嗅細胞、基底細胞は特徴的な眉構造をもつことが知られているが、今回ホールマウント標本を用いることによって頂端面側からみた支持細胞と嗅細胞の特徴的な細胞配列を詳細に観察することに成功した。 続いてこれらの手法を用いて、マウス発生・発達過程における嗅上皮の形態形成を観察した。嗅上皮は発生・発達につれてその厚みを増し、成熟した嗅細胞の割合が増加していく。その過程において嗅細胞と支持細胞が成熟に伴ってその形を変化させ、頂端面側の細胞配列をダイナミックに変化させていくことを明らかにした。嗅上皮頂端面側では嗅細胞の樹状突起ははじめいくつかが集まったクラスター状に存在しているが、次第に一列となりさらには互いに接することのないように配列していく。そして成熟につれて樹状突起はひとつの支持細胞に囲まれる位置にも存在するようになるのである。さらに嗅上皮の再生過程を明らかにするために、マウスに抗甲状腺薬を投与し嗅上皮に障害を与え、嗅上皮が再生する様子を観察した。嗅上皮の再生過程でも、発生・発達過程と同様の層構造の変化と頂端面側の細胞配列の変化が観察されることを明らかにした。 これらを踏まえ、嗅上皮内での細胞移動の分子メカニズムを明らかにするために、現在接着分子に着目して嗅上皮の解析を行っている。代表的な接着分子であるカドヘリン、また神戸大学高井義美教授らのグループにより発見された接着分子ネクチンの嗅上皮における発現をこれまで明らかにしており、今後ネクチンノックアウトマウスを用いて嗅上皮内の細胞移動におけるネクチンの働きを検証する。
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