本年度の研究では、骨髄細胞を用いた嗅覚組織の再生促進について検討するため、(1)GFP骨髄細胞移植動物を用いた嗅覚障害モデルマウスの作製、(2)嗅覚組織発生・再生時における分化制御因子等の動向解析を行った。 (1)GFP骨髄細胞移植動物の作製では、致死量のX線照射を施した野生型マウスに、GFPマウス由来骨髄細胞を移植(経静脈)することで作製した。嗅覚障害モデルマウスの作製では、薬物(メチマゾール:50mg/kg)投与による障害が一定の障害を与えられ、再生を観察する上で最適であると判断した。 (2)胎生期から成熟期にかけてのマウス頭部組織(嗅球)について、各種抗体を用いた免疫組織化学的染色を行った。これまでに、神経細胞同定抗体(NeuN抗体、TBX21抗体)、グリア細胞同定抗体(GFAP抗体)、ウィントシグナル関連抗体(β-カテニン)について染色結果が得られた。発生における染色結果では、神経細胞が胎生18日目から陽性細胞が観察されたのに対し、グリア細胞は生後14日目から陽性細胞が観察された。再生における染色結果では、神経細胞、グリア細胞共に障害の経時的変化に伴う明らかな変化は観察されなかった。 また、ウィントシグナル関連抗体(β-カテニン)は、発生においては胎生18日目から陽性細胞が観察されたが、再生においては障害の経時的変化に伴う明らかな変化は観察されなかった。 これまでの結果から、嗅球の発生においては、他の中枢神経の発生と同様に、神経細胞とグリア細胞の分化にはタイムラグがあることが判明した。さらに、神経細胞およびβ-カテニンの陽性細胞が共に胎生18日目から観察されたことから、嗅球においてもウィントシグナルによる分化誘導が示唆された。 今後はさらに他の神経細胞同定抗体、グリア細胞同定抗体、シグナル関連抗体を用いた免疫組織化学的染色を行い、詳細に検討していく予定である。
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