研究概要 |
小児滲出性中耳炎は幼小児期の代表的な感染症である。起炎菌としてとくに無莢膜型インフルエンザ菌Nontypeable Haemophilus influenzae(NTHi)は遷延性、反復性の中耳炎と関係が深い。中耳炎難治化には、薬剤感受性の低下、小児免疫機能の未熟が指摘されていたが、バイオフィルム形成も関与することが報告されている。 当施設で採取した無莢膜型インフルエンザ菌70株のバイオフィルム形成能をクリスタルバイオレット法で検討すると,バイオフィルム形成能は株によって大きく異なり、様々なバイオフィルム形成能を持つことが判明した。また、アモキシシリン治療に難治性である症例では、治療により改善した群と比べ、バイオフィルム高形成のインフルエンザ菌が多く検出された。 細菌の抗菌薬感受性試験として、最小発育阻止濃度MICは浮遊菌に対する効果を的確に評価できるが、バイオフィルム状態の細菌に対する効果を評価することはできない。バイオフィルム細菌の感受性を評価できる新しい方法として最小バイオフィルム抑制濃度minimal biofilm eradication concentration (MBEC)を検討した。これはin vitroでバイオフィルムを形成した細菌に対して抗菌薬を段階希釈して投与し、感受性を表したものである。 抗菌薬の種類によって、MICとMBECの関係は様々な様相を示し、バイオフィルムに対する抗菌薬の効果は浮遊菌に対する抗菌薬の効果と全く異なるものであった。アモキシシリン、セフジトレンといったβ-ラクタム薬はバイオフィルム内細菌に対して効果は低く、レボフロキサシンやクラリスロマイシンは良好な感受性を示した。抗菌薬選択にはMICだけではなく、バイオフィルムに対する抗菌薬感受性を考慮することが、重要になると思われる。
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