小児の急性中耳炎や鼻副鼻腔炎の発症において、鼻咽腔における肺炎球菌の定着の時期や細菌量が極めて重要な因子となり、さらに肺炎球菌血清型の分布は蛋白結合型肺炎球菌ワクチンの予防効果を検討する上で重要である。今回の研究では肺炎球菌の定量化および血清型別の定量化をリアルタイムPCR法を用いて試み、小児鼻咽腔における肺炎球菌の定量解析と肺炎球菌細菌叢の成立に関する検討を行った。 まず、急性中耳炎患児における培養法とリアルタイムPCR法における、肺炎球菌検出率の比較検討を行った。その結果、リアルタイムPCR法では有意に肺炎球菌検出率が高く、検査の感度がより高いことが分かった。また、培養で陽性であった症例では全例リアルタイムPCR法で陽性であった。 次に血清型判定における、抗血清法、リアルタイムPCR法について検討した。リアルタイムPCR法では結果が数値で表れ、判定が容易であることに比べ、抗血清法では莢膜が膨化しているかどうかの判定が難しく、そのため何度か検査を繰り返す必要があり、コストや時間の面でも不利であった。 次にリアルタイムPCR法にて、健常児および上気道炎患児における鼻咽腔肺炎球菌の検出および菌量の変化を検討した。その結果、健常児と比較して、上気道炎患児においては有意に肺炎球菌菌量の増加を認めた。さらに、健常児において、その年齢における鼻咽腔肺炎球菌菌量の変化を検討したところ、年齢と鼻咽腔肺炎球菌菌量は逆相関することが示された。これらのことは今まで、検出率といった半定量法でしか検討されておらず、我々は初めて定量により示したことに意義があると考えられた。また、上気道炎患児の鼻咽腔で肺炎球菌が増加していることから、鼻咽腔の菌量を減らすことが治療上、重要であることが考えられ、耳鼻咽喉科領域における鼻処置などの有用性が示唆された。
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