研究概要 |
喉頭亜全摘出術は喉頭癌に対する喉頭機能温存手術である.声帯が切除されるが,発声機能の詳細は不明である.そこで16列MD-CTのデータを用いてコンピューター上で3次元画像構築し,立体的な形態と運動の把握を目的として研究を行った.SCL-CHEPを施行した21症例を対象とした.MD-CTを用いて喉頭を構成する軟骨などの形態を描出した.a)披裂軟骨運動距離の計測:披裂軟骨の上端の点をプロットし,3次元画像上での発声時と安静時の直線運動距離を計測した.また輪状軟骨下端に接する面を水平面として3軸方向に運動距離を分割して計測した.両側の披裂軟骨が残存している症例では平均値を採用した.b)気道の描出と新声門最小断面積の計測:輪状,披裂軟骨と気道を描出した.新声門の輪状軟骨下面を水平面として,その面に平行な面での気道の最小の断面積を計測した.気道が複数に分かれている症例ではそのすべてを加算した.結果としてはa)披裂軟骨運動距離の計測:平均の披裂軟骨の直線運動距離は両側披裂残存例で3.98mm,片側披裂残存例で5.15mmであった.片側残存例の方が大きいが有意差はなかった.3軸方向に分割して比較した結果では,唯一前後方向の運動距離において,両側残存例で0.97mm,片側残存例で2.48mmと有意差があった(p<0.05).b)気道の描出と新声門最小断面積の計測:気道の描出で2種類に分けられ,発声時に気道が正中に一つの正中型と,披裂軟骨より外側に気道がみられる外側型があった,安静時の平均最小断面積は両側残存例で1O9.9mm2であり,片側残存例では71.2mm2であった(p<0.05).発声時の平均最小断面積は両側残存例で23.3mm2,片側残存例で29.9mm2であった.従来では観察できなかった3次元的な形態の把握は,効率的な発声のために必要な要素を明らかにした.SCL-CHEP後では披裂軟骨の運動と残存の披裂部により,発声時に新声門が十分に狭窄することが良好な喉頭機能を支え,温存された両側あるいは片側披裂軟骨と披裂部残存粘膜だけで,効率的に新声門を狭窄させることができると思われた.今後より良い音声機能のために手技を改善することが必要である.
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