ウサギを用いた動物実験にて、中耳粘膜毛細血管内の血流動態の変化が中耳腔全圧(以下、全圧と略す)の変化に及ぼす影響を検討した。 側頭骨を冷水にて冷却した際には、組織血流量は平均284であり、全圧最大値は平均9mmH_2Oであった。一方で、側頭骨を温水にて保温した際には、組織血流量は平均356であり、全圧最大値は平均11.8mmH_2Oであった。この結果では、保温時には冷却時に比べ中耳粘膜血流量が増加し、血流量が増加すると全圧最大値も増加する傾向があることが認められた。 また血流動態の変化が経粘膜的なガス交換のどの部分に影響を及ぼすかを検討するために、経粘膜的な二酸化炭素の拡散率を表す全圧上昇率と酸素の吸収率を表す全圧減少率について検討した。上昇率は冷却時では平均3.08mmH_2O/分、保温時では平均3.33mmH_2O/分であり、冷却時に比べ保温時に上昇率が高い傾向が認められた。一方で減少率は冷却時では平均2.50mmH_2O/分、保温時では平均2.50mmH_2O/分であり、両者に差は認められなかった。 これらの結果は、正常な中耳粘膜では中耳粘膜毛細血管の血流が増加すると、経粘膜的な二酸化炭素の拡散が増加し、その結果全圧最大値が増加するが、一方で血流動態の変化は酸素の吸収には影響を及ぼさないことを示している。 今後はウサギ中耳炎モデルを用いて炎症粘膜における血流動態と全圧との関連を検討し、中耳粘膜の炎症状態が粘膜の血流動態および全圧の変化にどのような影響を及ぼすかについて、正常粘膜との比較を行う。
|