ウサギを用いた動物実験にて、中耳粘膜毛細血管内の血流動態の変化が中耳腔全圧(以下、全圧と略す)の変化に及ぼす影響を検討した。 側頭骨を冷水にて冷却した際の血流動態は、組織血流量は8.92±5.3、組織血液量は248.6±115.6、血流速度は1.22±0.26であった。冷却時の全圧最大値は11.1±2.3mmH20であった。 側頂骨を温水にて保温した際の血流動態は、組織血流量は12.2±8.8、組織血液量は265.2±179.7、血流速度は1.58±0.91であった。保温時の全圧最大値は12.1±1.85mmH20であった。 中耳粘膜の血流動態は、冷却時に比べ保温時で組織血流量、組織血液量、血流速度ともに高い傾向が認められた。また全圧最大値でも保温時の方がやや高い傾向を示したが、統計学的な差は認めなかった。 また血流動態の変化が経粘膜的なガス交換のどの部分に影響を及ぼすかを検討するために、経粘膜的な二酸化炭素の拡散率を表す全圧上昇率と酸素の吸収率を表す全圧減少率について検討した。上昇率は冷却時では平均3.36mmH20/分、保温時では平均3.97mmH20/分であり、冷却時に比べ保温時に上昇率が高い傾向が認めた。一方で減少率は冷却時では平均0.66mmH20/分、保温時では平均0.52mmH20/分であり、冷却時の方が高い傾向を認めた。 これらの結果は、正常な中耳粘膜では中耳粘膜毛細血管の血流が増加すると経粘膜的な二酸化炭素の拡散が増加する一方で酸素の吸収は抑制され、その結果全圧最大値が増加する可能性が示唆される。しかし現時点でのデータでは統計学上の有意差は出ておらず、引き続きのデータ採取が必要である。
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