神経堤細胞は遊走しながら血管条メラノサイトに分化していくと考えられているが、発生中の遊走過程は詳細には理解されていない。そこで、本年度は神経堤細胞に特異的発現を示すWnt1遺伝子のプロモーター下でCreリコンビナーゼが発現するトランスジェニックマウスとGFPレポーターマウスの交雑(以後、Wnt1-Cre/GFPマウスとする)を用いて、発生中の内耳蝸牛に遊走する神経堤由来細胞の挙動を観察した(Cre-loxPシステムによりこの交雑の神経堤由来細胞は永続的にGFP標識される)。このWnt1-Cre/GFPマウスの蝸牛軸切片を作製して、抗GFP抗体を用いて免疫組織化学法により観察した結果、内耳発生初期にGFPで標識された神経堤由来細胞が「神経堤から耳胞腹正中側の近傍と耳胞背側に遊走する経路」を示唆する像が得られた。さらに、遊走中の神経堤由来細胞の分化段階を理解するために、同一切片上でメラノブラストマーカーDctのin situ hybridizationと抗GFP抗体の二重染色を行なった結果、DctとGFPがdouble positiveな神経堤由来細胞ばかりでなく、Dctが発現していないGFP陽性細胞が耳胞背側に散在していることが明らかとなった。また、出生後の内耳完成期には血管条中間細胞にGFP陽性細胞の集積を認め、これらの細胞は血管条メラノサイトに特異的発現を示すKir4.1を発現(免疫組織化学法)していたことから、このWnt1-Cre/GFPマウスの血管条中間細胞は神経堤由来細胞であり、メラノサイトに正常に分化していることが示唆された。今後、血管条メラノサイト発生異常により先天性高度感音難聴を合併するWaardenburg症候群の病態解明に向けて、このWnt1-Cre/GFPマウスを用いて血管条メラノサイト分化誘導機構の探索を行う予定である。
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