研究概要 |
平成22年度で我々は、鼻閉に対する下鼻甲介外来手術を行ったアレルギー性鼻炎症例を85例経験し、入院で内視鏡下副鼻腔手術(ESS; endoscopic sinus surgery)を行った慢性副鼻腔炎症例を186例経験した。初年度は主に研究が遂行できる環境を整えた。鼻腔通気度計を購入して、術前後の鼻内の通気性を測定できようにした。以上の症例において、血中好酸球の割合(%)、血清免疫グロブリンtotal IgE値(RIST, IU/ml)、個々のアレルゲンに対するIgE値(RAST, UA/ml)を測定した。術前後の鼻内所見の変化、自覚症状の改善度について、パーソナル・コンピューター(PC)にデータを入力して解析した。また、慢性副鼻腔炎に対するESSの術中は、デジタル・ビデオ(mini DV)で記録した。手術所見(特に嗅裂)は、正常、浮腫状、ポリープ状の3段階に分けて評価した。鼻腔ポリープを採取したが、副鼻腔粘膜の採取は困難であった。鼻・副鼻腔粘膜におけるメントール、カプサイシンの受容体発現を調査する基礎実験を現在も進行中である。主な研究テーマの一つである嗅覚障害を伴った慢性副鼻腔炎に関する研究については、手術症例における嗅力の術前後の変化ついて調査して、ESSの有効性について検討した。結果を2010年6月にスイス・ジュネーブで開催された鼻科学の国際学会で発表して、鼻科学専門の先生方と治療効果の改善のための有意義な意見交換をすることができた。嗅覚検査として、アリナミン検査、T&Tオルファクトメーターを行い、その結果を解析した。日本鼻科学会により提唱された「日常のにおいアンケート」が嗅覚検査との有意な相関を証明することができた。このアンケート法が嗅力評価の補助手段となり得る可能が示唆できる結果が得られた。成果は国際学術雑誌(Auris Nasus Larynx)に掲載された。嗅覚の関心がより広く広がり、嗅覚障害への対応の普及への一つであることが期待できる。また、新しい検査として期待されるシート式嗅覚検査(OPEN ESSENCE)を用いた嗅覚の評価も開始した。
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