研究概要 |
糖尿病による内耳障害については定説がない。一般的に糖尿病は加齢とともにその有病率が高くなり、加齢変化が加わることがこの研究を困難にさせている。これまでに我々はミネソタ大学所有のヒト側頭骨を用いて加齢変化を除外するために、若年で発症する1型糖尿病患者(26耳:18-68歳,平均38歳)の内耳と非糖尿病群を比較検討した。次に65歳未満(平均53歳)の2型糖尿病患者(36耳)の内耳を非糖尿病群と比較検討した。 その結果、糖尿病群では(1)内耳の血管壁の肥厚、(2)基底回転有意の外有毛細胞の障害、(3)全蝸牛回転での血管条の委縮を認め報告しているH.Fukushima,Otolaryngol Head Neck Surg.2005;H.Fukushima,Arch Otolaryngol Head Neck Surg.2006;これらにより糖尿病による内耳障害について明らかにした。 実際に糖尿病により難聴が起こるのか?糖尿病と感音難聴の関連について調べるために当科における突発性難聴患者を対象に検討した。2004年1月から2008年12月まで当科で突発性難聴と診断された症例。発症から30日以内。前医で初期治療が行われているものは除く。10歳未満は今回の検討から除外した。上記を満たす272例(13-85歳平均51歳)を対象に検討した。この結果、当科の突発性難聴患者のうち糖尿病を有する割合は日本人の糖尿病有病率よりも高かった。また、年齢が低いほどよりその差は大きかった。60歳以上の群で糖尿病合併群の有無で初診時の重症度、治療後の聴力改善に差がなかった。60歳未満の群で糖尿病合併の有無で初診時の重症度に差がないにも関わらず、糖尿病が合併群で有意に聴力改善が悪かった。 糖尿病患者では突発性難聴を発症する割合が高くまた、難治性であった。糖尿病は聴力障害に関与している可能性が示唆された。
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