研究課題/領域番号 |
22791640
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
若杉 哲郎 産業医科大学, 医学部, 助教 (20461569)
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キーワード | ZNF143 / Th2サイトカイン / 好酸球 / アレルギー性鼻炎 |
研究概要 |
転写因子ZNF143が、Th2サイトカインの転写制御に強く関わり、アレルギー応答としての高IgE血症や好酸球増加症を生じている可能性を示し、アレルギー性疾患の新たな治療標的を提唱する研究である。今回用いた検体は、ヒト鼻粘膜(通年性アレルギー性鼻炎群:AR群、および対象のRAST陰性肥厚性鼻炎群)である。まず、3つのTh2サイトカイン(L-4,5,13)、および2つの転写因子(GATA.3、ZNF143)のmRNA発現量を定量的RT-PCR法で比較した。3つのTh2サイトカイン全てが、AR群で有意に上昇していた。しかし、2つの転写因子は、アレルギーの有無で発現の差はなかった。さらに、血中の総IgE値/総好酸球数と、対象とした5つのmRNA発現量の関係を比較検討した。IL5の発現量と、総IgE値および総好酸球数、またIL13と総IgE値の間には有意な正相関があり、Th2サイトカインがアレルギー病態へ関与しているという以前の報告と一致した。興味深いことに、Th2サイトカイン制御のマスターレギュレーターとされるGATA-3は、これらの因子と相関関係を認めなかった。しかし、ZNF143と(1)IL5、(2)IL13、(3)総IgE値の発現量の間に有意な相関を認め、ZNF143がアレルギー病態に関係している可能性が、初めて示された。この結果から、ZNF143が、GATA-3の補助活性化因子として働いているのではないかと考えている。今後、Luciforase assayで転写調節機構を検討したい。またGATA-3と各因子との間に量的な相関関係がなかったのは、GATA-3の持つSNPによるものではと推察をしており、SNP解析で確認をしたい。さらに、Th2以外のT細胞分化に関わる因子に関しても、今回同様に定量的RT-PCR法を用いて、更なる検討を追加したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定していた以上に、定量的RT、PCR法に経費がかかったため、培養細胞を用いた実験系の導入が困難となった。従って、大学内の共同施設などを利用して実験を行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト鼻粘膜におけるGATA-3によるTh2サイトカイン転写調節機構は、今回の結果で、容量依存性ではないことが明らかとなった。その理由として、(1)ZNF143とGATA-3の分子会合を起点とした転写調節機構が存在すること、(2)GATA-3のSNPによる機能異常、を考えている。(1)に関しては、今後培養細胞を用いた実験系で確認をする予定で、(2)については、本学の倫理委員会に通し、対象およびコントロール症例からルーチンで行う採血の一部を利用してDNAを集め、SNP解析を行う予定である。また、Th2以外のTh1などへのT細胞分化因子についても、定量的RT-PCR法で検討し、ナイーブT細胞のTh2への分化過程を明らかにすることも検討している。
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