Auditory Neuropathy(AN)は外有毛細胞の機能は正常であるが、聴覚神経が機能しないことにより発症する感音性難聴の総称であり、OtoferlinはOTOF遺伝子の遺伝子産物でANの原因遺伝子である。バイオインフォマテックス的調査より、このOtoferlinがリン酸化に関与する可能性が挙げられたことから、実際に生体マウスにおいてOTOF遺伝子の関係するリン酸化機構の存在を確認するため、OTOF遺伝子欠損マウスを用いて発生段階において解析することを目的とし実験に着手した。 OTOF遺伝子欠損マウス(ENSMUSG62372)を用いて、発生段階初期(生後0日)からアダルト(12カ月齢)における内耳形態を調べてみたところ、正常マウスに比べて蝸牛神経節において神経細胞が明らかに減少しているという形態異常があることを世界に先駆けて発見した。生後半日の蝸牛神経節においても神経細胞の減少が観られたことから、胎生期において発生に異常があると推察することができた。 本研究におけるOTOF遺伝子欠損マウスの解析での、発生段階における蝸牛神経の形態異常という新たなフェノタイプを発見した事は、他の遺伝子異常によっても発症するANの病態解析のモデルとなりうる点が、重要な進展である。 本研究成果による、本マウス蝸牛神経の病態発生機構を発生段階における形態学的解析の蓄積は、Otoferlinの関与するリン酸化メカニズムの解析を進められることに繋がることが期待される。また、これら分子基盤レベルにおいて解析を進めることにより、ANの発症機構が明らかとなり、基礎的なANの発症モデルを確立するだけでなく、AN治療を目的とする治療薬開発に繋がることも期待される。本研究成果はその切り口となったことに重要な意義があると考えられる。
|