研究課題/領域番号 |
22791642
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研究機関 | 公益財団法人 先端医療振興財団 |
研究代表者 |
山崎 博司 公益財団法人 先端医療振興財団, 診療部, 研究員 (80536243)
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キーワード | 人工内耳 / 自閉症 / autistic spectrum disorder(ASD) |
研究概要 |
本研究では、小児科領域で最近報告された自閉症スペクトラム障害(ASD)重症度の他覚的検査(顔認識注視点走査、光点画像認識)を難聴児に応用し、ASDの重症度と人工内耳装用効果の関連を定量的に評価して、この結果を人工内耳手術後の言語リハビリテーションの方針決定に役立てることである。 平成23年度は、昨年度の被験者に追加して人工内耳装用非ASD児、人工内耳装用ASD児に対して顔認識注視点走査を行った。その結果、正常対照群は、過去め報告(Warren et al.Arch Gen Psychiatry.2008;65:946-54)と同様に、言語聴覚士の目に注目したのに対し、人工内耳装用ASD児と人工内耳装用非ASD児はいずれも言語聴覚士の目ではなく口や手を注視する傾向が強かった。そのため、難聴児では顔認識注視点走査をASDの重症度予測に用いることが困難であると考えられた。 次に、光点画像認識検査を行った。本検査の被験者数が3名と少ないものの難聴児でもASDを持たないものは生物学的意味のある方を注視する傾向があり、難聴児におけるASDの早期診断に本検査が有用である可能性が示唆された。今後人工内耳装用非ASD児の被験者数を増やすとともに、人工内耳装用ASD児に対して検査を行い、検査の妥当性を検討する必要がある。 最後に、ASD早期診断が言語リハビリテーションの方針決定に寄与しうるかを評価するために、ASD合併人工内耳装用児と、mental retardationやADHD等のASD以外の高次脳機能障害を持つ人工内耳装用児で、人工内耳装用効果がどのように異なるかを検討した。その結果、mental retardationやADHDを合併する人工内耳装用児では、言語発達遅滞は認めるものの、語音弁別等の比較的低次の聴性反応は保たれていたが、ASD合併児では語音弁別を含む低次の聴性反応も障害されていた。これは、ASD合併人工内耳装用児では人工内耳装用開始直後からコミュニケーションを促すために視覚言語を主たるコミュニケーション手段とする必要性を示唆しており、自閉症の早期診断の意義を裏付けるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ASD合併人工内耳装用児はそもそも普段と異なる検査をすることが困難で、検査に慣れるまでに時間と家族の努力(児を落ち着かせる等)を要する。そのため、検査に同意していただくためには検査を行うことで児及び家族の負担を上回るメリットがあることを理解していただく必要があった。しかし、これまでASD合併人工内耳装用児の報告が少なく、ASD早期診断の意義を示す科学的根拠が少なかったため、検査の同意が得られにくかった。
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今後の研究の推進方策 |
ASDを持たない人工内耳装用児(5人)とASD合併人工内耳装用児(4人)・に対して光点画像認識検査を行い、本検査により難聴児のASD早期診断および重症度診断が可能か検討する。 これまで、ASD患者の家族に検査の意義を科学的に説明する根拠が少なかったため、検査に対する同意を得られにくかった。しかし、研究代表者は2012年4月にASDを合併する際には早期から視覚言語が不可欠であることを示唆する論文を発表したため、この結果をもとにASDの早期診断の意義を再度家族に説明し、同意を得る予定である。
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