本研究では、自閉症スペクトラム障害(ASD)重症度の他覚的検査(顔認識注視点走査、光点画像認識)を難聴児に応用し、ASDの重症度と人工内耳装用効果の関連を定量的に評価して、この結果を人工内耳手術後の言語リハビリテーションの方針決定に役立てることである。 平成23年度までの研究では、顔認識注視点走査の検査で、正常対照群では過去の報告と同様に言語聴覚士の目に注視したのに対し、人工内耳装用ASD児と人工内耳装用非ASD児はいずれも言語聴覚士の目ではなく口や手を注視する傾向が強かった。本年度は、被験者に提示するビデオを変更して再度検査を行ったが、結果は同じであった。興味深いことに、人工内耳装用後の言語発達が良好な人工内耳装用非ASD児でも、口を注視する傾向が強かった。これは音声言語を用いたコミュニケーションが良好な人工内耳装用児でも、視覚情報を補助的に使用してることを示唆している。光点画像認識検査では、人工内耳装用非ASD児4人に対して検査を施行したところ、提示した画像の特定の部分を注視することが少なく、視点が頻繁に移動するため検査自体が困難であった。この原因としては、検査画像対する順応が不十分であった可能性が考えられた。 最後に、ASD 合併人工内耳装用児と、mental retardation(MR)やADHD等のASD以外の高次脳機能障害を持つ人工内耳装用児で、人工内耳装用効果がどのように異なるかをさらに検討した。MRやADHDを合併する人工内耳装用児では、人工内耳装用後は認知面と言語面の発達指数の差が縮小、あるいは不変となったが、ASD合併児ではさらに拡大した。これは、人工内耳装用児でもASDの病態そのものが言語発達遅滞を増悪させていることを示唆しており、難聴児における自閉症の早期診断の意義を裏付けるものである。
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