近年の再生医療の進歩には目覚ましいものがある。中でも角膜上皮の再生医療は他分野に先駆け臨床応用が行われ、かつて難治とされた療痕性角結膜疾患においても良好な治療成績が報告されている。一方で、利用できる細胞源が極めて限られていることが本法の問題点の一つである。皮膚はヒトの持つ最大の器官であり、細胞の採取も比較的容易であることから、自己の表皮細胞から形質転換した角膜;上皮細胞(auto)を用いることが可能となれば、角膜再生医療は飛躍的に進歩すると考えられる。本年度の研究において我々は、角膜上皮細胞の特異的分化マーカーであるサイトケラチン12(K12)の発現により緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するTgマウス(K12Cre/ZEGマウス)由来の細胞を用いてマウス表皮細胞から角膜上皮様細胞への形質転換が可能であるかどうかを明らかにし、形質転換が可能な培養モデルを確立、さらに本培養系を用い、形質転換に関わる因子について検討を試みた。本研究の成果としてまず、K12Cre/ZEGマウス由来の表皮細胞と野生型マウスの強角膜片を用いた器官培養により、マウス表皮細胞から角膜上皮様細胞への形質転換が可能であることを明らかにした。また、免疫組織学的検討を行い、角膜周辺部(輪部)の細胞外基質または輪部由来液性因子がK12の発現誘導または上皮細胞の分化運命決定に重要な役割を担っていることを明らかにした。我々の最終的な目標は、重症角膜輪部機能不全症候群への臨床応用であるが、臨床においては詳細な組織学的検証は困難であり、動物モデルの確立は臨床応用を成功させるために欠かせない。本研究の成果により、ヒト臨床応用の基礎となる動物モデルを作製出来たことで、今後の角膜上皮再生医療の発展に大きく貢献するものと考えられる。
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