加齢黄斑変性は、近年、我が国でも欧米人に近い有病率が報告され(Ohshima Y et al.Br J Ophthalmol 2001)、超高齢化社会の進行とともに患者が増加してきている非常に重要な視力障害の原因疾患である。細胞生物学的手法により近年その分子メカニズムが明らかになりつつあり、発症メカニズムには酸化ストレスが含まれることが広く認識されているが、現時点では有効な治療法があまりない。日本・欧米ともに抗酸化剤のサプリメントの適応が注目されているものの、組織移行・安全性など、様々な課題が残されている。一方、生体内で作用する分子としてある種のガスがあるが、これは低分子でありほとんどの臓器に拡散可能であること、摂取の開始・中断により体内レベルをコントロールしやすいことが知られている。しかし抗酸化作用を持つ水素の加齢黄斑変性に対する効果についての報告は未だ無かった。そこで、マウス加齢黄斑変性モデルにおいて、水素ガスが脈絡膜新生血管の抑制に役立つかどうかを解析した。レーザー誘導脈絡膜新生血管モデルマウスを作成し、水素ガスの前投与が新生血管形成の抑制に有効かどうかを組織学的に解析した。また、関連する炎症性シグナルが抑制されるかどうかも解析した。レーザー照射前のマウスに対し水素水を0.3μg経口投与施行した。経口投与終了7目後にFITCレクチンによる灌流ラベル法を用いて脈絡膜新生血管の体積を評価した。今回の解析では、新生血管の抑制の傾向は認められたが、明らかな差は認めなかった。関連する炎症性サイトカイン等の発現抑制に関しては、今回の実験条件では、明らかな差を認めなかった。ただし、水素水の投与の方法等を変えることで、効果が見られる可能性もあり、今後さらなる研究が必要であると考えた。
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