2010年度に、我々は網膜ホメオボックス遺伝子であるRxのプロモーター下流にDsRedを発現するBACクローンをiPS細胞に導入し、SFEB/DLFA法を用いる事により、網膜前駆細胞と思われるRxDsRed陽性細胞をFACSにてソートする事が可能であった。 その後、我々はソートした細胞が網膜前駆細胞であるかを確認するためにRxやPAX6、SOX3などのマーカーのリアルタイムPCRによる発現の確認を試みた。ところが、実験を重ねるにつれRxDsRed陽性細胞の発現が徐々に減少し、ついには蛍光顕微鏡にても確認困難になった。そこで我々はOsakadaらのSFEB/DLFA法から、DL濃度が濃く、かつ培養時間の長いHiramiらのSFEB/DL法へと変更した。しかしRxDsRed陽性細胞は検出する事が出来なかった。我々は続いてRxDsRedを遺伝子導入したmiPS細胞のtransgeneの発現が継代を重ねた結果として、弱まった可能性を考え、強く発現が見られたラインの継代数の若い細胞を用いて再度SFEB/DLFA法を行ったが、RxDsRed細胞は検出できなかった。feeder細胞が分化誘導中に残存し分化を抑制している可能性を考慮し、feederをゼラチンコートディシュに張り付けて除去する方法から、LIFの存在下で継代することにより除去する方法を行いfeeder細胞をより確実に除去したが、Nanog陽性細胞数は著明に減少したもののRxDsRed陽性細胞数は増加しなかった。我々は20ライン作ったRxDsRedを遺伝子導入したmiPS細胞の全ラインでSFEB/DLFA法ならびにSFEB/DL法を行ったところ、極めて微量な蛍光を発するRxDsRed陽性細胞を認めたが、FACSによる回収は困難であった。以上より我々は2010年度にRx-promoter下流にDsRedを発現するBACクローンを作製する事に成功し、かつ、同クローンをマウスiPS細胞に遺伝子導入する事に成功した。なおかつOsakadaらの方法を用いて網膜前駆細胞と思われる細胞を回収する事が出来たといえる。しかしその後、分化誘導効率が落ち、様々な検討を行ったが再度回収する事は困難であった。以上が研究成果である。
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